優しい音
ある時私の演奏の前に数人のグループのライアー演奏があって、その後私の独奏になったのですが、その時会場にいた方から演奏会の後で聞いた話は、「グループ演奏の時の音がとても小さくて、その後の一人での演奏になったら何も聞こえないのではないか」と心配でしょうがなかったのだそうです。ところが私の演奏になったらさっき聞いたグループ演奏の時の音の何倍もの音だったのでびっくりしたということでした。そして私の演奏を聴いている間中、どうしてこんなに良く聞こえるのか不思議でしょうがなかったのだそうです。
今までに歌の伴奏は何回かしました。頼まれればするという程度ですから回数は多くないのですが、する度に「なぜ仲さんのライアーの音はよく聞こえるのか」と聞かれます。答えはいつも、「力一杯弾いているからですよ」というものです。本当なんでこれ以外に答えようがないのです。「全身全霊を込めて力一杯弾いているのです。そのように言われたのは一人や二人ではないので、他の人はどうやって伴奏しているのだろうと思っています。
それまで躊躇していたライアーの録音をしようという段取りがついて、録音を始めた時の話です。録音スタッフはライアーの録音を今までしたことがない人たちでした。私の方も長いこと録音することを断り続けてきたので、お互いに半信半疑でした。録音スタッフはライアーの音を聞くことすら初めてだったのでした。普段はコマーシャルの映像に最後のナレーションを被せることをする人たちです。名古屋のスタジオでしたので、トヨタのコマーシャル映像にナレーションを被せるわけですが、私のライアーの音を聞かれた主任の方が、私の音が声の様だと感じられたためすぐにインスピレーションが湧いて、ライフーのすぐ上にマイクを限りなく近くまで寄せて、「オンでとります」と言われました。録音室は勿論反射する音がなくなっている不思議な雰囲気の部屋でした。その狭い空間の中で自分のライアーの音を聞いて初めて楽器が鳴っているところを生で体験したことを思い出します。さらに使用したマイクが、知る人ぞ知るのドイツ製のノイマンでした。
試験的に音を出してマイクの状態、ライアーの音の出方などを調べ「試しに録音してみましょう」ということになり録音をしました。一曲弾いた後試聴室でスタッフの人たちと一緒に録音されたものを聞いた時のことです。録音した音の音型を見て珍しがっていたのです。スタッフの方達がいうには、こんな音は聞いたことがないということでした。普通の波形は揺れが生じているものなのだそうです。ところが、私のライアーの音は波形がぶれることなく一直線なのです。「雑音がほとんどない。集中がすごい。」と言われました。
しばらくして久しぶりに当時のスタッフの一人と会った時に、私の後にライアーの録音をした時のことを話してくれました。そこで言われたのは、「仲さんの様な集中した波形には出会いませんでした」というお褒めの言葉をいただきました。私の音は聞いていると静かな音ということはわかるのですが、集中力ということになると人間の耳にははっきりとを感じないのに機械で測定すると機械的は嘘をつかないので、鳴っている音をそのまま測定し、そこで録音した音の質を知ることになります。「あの様なまとまった、静まり返った波形は仲さんのライアーだけからしかみられませんでした」、そう言われても、私は私の音しか知らないので何とも答えようがありませんでした。
私は190人の人の前でマイクなしでライアーを聞いていただいたことがあります。隅々までよく聞こえたということでした。その噂を聞いた人たちの間で「仲さんはマイクを使っていた」という風評が広まり迷惑した覚えがあります。また「録音でエコーをたっぷり入れているからよく響く様に聞こえるだけだ」という噂も立っていました。そんなことは全くしていません。ただ音が集中しているだけなのです。その中で音は単なる音ではなくなってしまう様なのです。
私の音を聞いた方は口々に「優しい音ですね」と言われますが、優しく弾くどころか思いっきり力を込めて弾いています。それでもうるさくなることはなく、優しく聞こえるのは全身全霊で力強く弾れた音が集中していることにある様です。






