黒子という役割
歌舞伎の舞台の上で役者さんの衣装替えが行われることがあります。その時に着替えをスムースにするために黒子という人が登場するのですが、手際よく作業をされるその姿には見る度に感心していました。この黒子のような存在は世界の演劇舞台では例がないもので、日本独特のものとして特筆できると思います。
ミヒャエル。エンデさんはこの黒子に目をつけた劇作家でした。イタリアでエンデさんの劇が上演されると決まった時、演出家としてイタリアで舞台づくりをした時に、黒子をそこで使おうというアイデアが生まれイタリアのスタッフと話し合った結果、やってみようということになったのです。ところがいざやってみるとうまくゆかないのです。エンデさんが日本の歌舞伎の舞台で見た黒子は、そこにいるのに目立たないというのかその存在が全く感じられないくらいだったのです。ところがイタリアの舞台人が黒子に挑戦してみるのですが、エンデさんには納得がゆかないのです。何が問題だったのかというと、日本の黒子はそこにいるのに存在が見えなかったのに、イタリア人が黒子をやると丸見で邪魔になってしまうのです。まるで黒子が主役のような具合になってしまって、困った挙句、日本から黒子を呼んで実際にどういう風にやっているのかみることにしたのだそうです。
いよいよ黒子がに日本からやって来て、舞台の上で衣装の着替えを手伝ったのですが、イタリアの舞台の上でもやはり見えないのです。これにはイタリア人がびっくりしていたそうです。エンデさんが言っただけでは信じなかったイタリア人が口を揃えて「本当に見えない。なぜ見えないのだ」と不思議がったのだそうです。
イタリア人は会話をしている時によく身振り手振りで話します。路上で知り合いのイタリア人に会うと、手にした荷物を路上に置いてしっかりと身振り手振りで話し始めます。この調子で黒子をやったのでは全く場違いです。目立ちすぎます。見えてはいけないのですから、目立たないように最小限の動きに収めなければならないわけです。どんなに練習してもイタリア人に黒子は無理ということで、日本の黒子に舞台に立ってもらったということでした。
黒子に興味があると言うだけでなく、自分自身黒子でありたいと思っています。そんなところがまだたっぷり日本人です。
日本の技術の世界では、黒子的に世界の表舞台には立たず、湯あめいなブランド製品を見えないところでしっかりと支えていることが知られています。ほんの一例ですがNASAのロケットに使われるネジは、日本の町工場で手作りされているネジでなければならないと話に聞いたことがあります。ネジがしっかりと固定するのだそうです。想像を絶するような話です。またまだ数えきれないほど、なくてはならないものを日本の技術が創っているというのは、やはり黒子文化なのだと感じてしまいます。最新のテクノロジーの世界ですら黒子の素質は生きているようなのです。






