人の放つ波動。テレパシーの予感
古事記は「天地初めてひらけし時高天原に成れる神の名は・・・」、と始まります。ここに見られる「成る」を取り上げてみることにします。
一般的な解釈としては宇宙が成り立つということですが、ちがう意味を添えて「鳴る」と解釈する方がいました。十五年ほど前に、名古屋のやまさと保育園から依頼され「古事記、人形劇版」を制作監督した時、台本を作るにあたり手当たり次第古事記について書かれたものに目を通そうと思い立ち、友人たちに協力してもらい豊富な資料を集めることができました。その中に宗教団体、生長の家の創始者、谷口雅春氏の古事記の解釈本があったのです。それを読んでいるときに「成る」は「鳴る」だという解釈に出会ったのです。谷口氏は「アメノミナカヌシの神」が宇宙に響き渡ったと理解されておられたのでした。初めて知る解釈で戸惑いましたが、なるほど「成る」という解釈では抽象的と言えるものなのに、鳴ると言うことだと宇宙に響き渡るイメージが生まれ、本当にそこから何かが始まったと言う臨場感がある時ふと感じられ納得した次第です。
旧約聖書の創世記でも言葉の響きから世界が作り出されてゆきます。言葉は言の葉ということなのですが、言の波とも解釈できます。神様が「光あれ」というと言の波から光が生まれたという解釈も成り立つわけです。しかし古事記は創世記よりさらに遡った段階の描写で、世界を創る神様が、まさに無から生まれるところですから、創世記の神様のお仕事より前の話しになります。響きと共に宇宙が生まれたと言うイメージは宇宙に命を吹き込みます。ここで言われている音の響きは、物理が説明する、物質的現象として測られる振動のことではなく、むしろ測定不可能な次元を異にした響きの根源のことです。そこから「アメノミナカヌシの神」が誕生したと言っているのです。響きと音とは混同されがちなものですが、音は芯の部分て響きは音のオーラのようなものと理解できます。厳密に言うと音というの物質的には聞こえていないものなのかも知れません。今日、音というと音楽のためのものと捉えられていますが、ここでの音は耳に聞こえているので響きのことです。古事記の中で描写されている「鳴る」は音楽以前の話しですから厳密に言えば一音の響きだったと解釈していいと思います。音楽はそうした一音の響きが素材となり作り上げた建築です。聞こえる建築です。建築がよく音楽に例えられますがこうした観点から見ると、偶然というより必然的な発想です。例えば薬師寺の五重塔を見た西洋の建築家ブルーノ・タウトは凍れる音楽と形容しています。
私たちの時代はまだまだ物質中心の世界観です。音が響くことで神様が生まれるなんて今日の物質中心の考えからは非常識な発想ですが、再びキリスト教のヨハネ福音書を引き合いに出すと「初めに言葉があった。言葉は神のもとにあった」とやはり言葉が始まりに位置しています。言葉はそもそも響いているものです。言葉はそもそもは話し言葉だったのです。さまざまな理由で文字を読めない人はいますが、その人たちも話すには不自由しないのです。言葉が文字として表されるようになった事自体は歴史的必然があったのでしょう。記録することへの要請と言ってもいいのかも知れません。私たちの生きている記録文化です。当初はごく限られた人しか文字を使いこなせませんでした。教育のお陰と言っていいのでしょうが、今日、識字率は相当高くなっています。話し言葉と表記する言葉はどこか違うものです。
日本語というのは三種類の表記システムがある特殊な言語です。習得のために大変な労力が費やされているわけですが、それが無駄な事だと外国から言われたりもしています。何度もカタカナ表記やローマ字表記が提唱されましたが、未だに漢字、ひらがな、カタカナは生き延びています。生き延びていることで歴史を確認できることは大切なことです。もしカタカナ表記に変わっていたとすると、漢字で表された歴史の中の書物等は極く限られた人にしか読めないものになっていたはずで、歴史とコンタクトが取れない哀れな国に成り下がっていたと思います。国の文化の根底が瞬く間に失われてしまうったことでしょう。何がいいのか時代が選択して行くことになるのでしょうが、書き言葉が、時代の流れの中で簡略化され、ますます記号化している姿を見ると、言葉の異変がもうすぐ起こりそうな気がしないでもありません。もしかすると言葉は音声としての言葉、表記される言葉を乗り越えて、波としてテレパシーにとって代わってしまうものなのかも知れません。昔天使という存在は言葉を持たないと聞いた時びっくりしたものですが、今日の様子を見ると、人間ももしかするともうじき波を感じるだけでわかってしまう、言葉を喋らない存在になってしまうのかも知れないと思ったりします。
そうなると響きの向こうの今はまだ聞こえない音が感じられるようになるのかも知れません。






