根っこの話し

2013年8月6日

トーリアはドイツの西の端の町で、フランスとの国境の町です。ルクセンブルクも40キロメートル程のところにあります。

この町を有名にしているのはこの町が二千年も前にローマ人がヨーロッパ支配のための拠点として当時の地中化文化をこの町に再現したことです。ポルタ・ニグラと呼ばれる石造りの正門、ローマ人が大好きだった大浴場など、今でも第二のローマと言われたトーリアの当時を偲ばせます。

もう一つはワインが世界中で好まれる今日、モーゼルワインの中心地だからです。

 

この町から少し離れたワインの村カーセルに古くからの友人がいて、両親まではワインの樽を作ってきた家でしたが、子どもたちはそれでは食べて行けない現実があり(当時はまだ今ほど世界的なワインブームではなかったのです)、友人は老人介護の仕事、お兄さん達はみんな学校の先生となって、今では住む家とその向かいにあるガレージとして使われているかつての作業所に名残を残すだけとなっています。

 

それでも友人の血の中にはワイン文化がしっかり遺伝されていて、彼がワインについて語り始めたら終わりがなく、夜が更けるまで美味しいワインを飲みながら何時間もワインの事、葡萄の種類のこと、白ワインと赤ワインの本質的な違い、樽の作り方、そのために向いた木の種類、保存の仕方と延々と話しが続きます。

それを聞きにわざわざ遊びに行くということなのですが・・

 

最近聞いた話しで興味深かったのは葡萄の根っこのことでした。葡萄の根っこと言うのは12から15メートルくらいにまでなり、細かく地中深く根を張って行くようで、トリーアがローマ人によってワインのための葡萄栽培が始められたのは、この地域の地層が葡萄に最適と言われる粘板岩だったためで、粘板岩の細かい層の間を葡萄の根が深く延びて行くことで力のある葡萄が育ち、それによって上質のワインができるということでした。

ドイツは地層的には粘土質、北ドイツの砂地、南ドイツに多い石灰質とがあり、その中でも粘板岩が、彼の説によると一番適しているというのです。しかもリースリングという葡萄の種類から作られる白ワインです。これが世界的なブランドになったモーゼルワインです。

 

西岡常一さんの木の話しを読んでいた時に、法隆寺が千年持ったのは、樹齢千年以上の檜を使っているためと言うくだりがあり感動したことがあります。

西岡さんによると今でも台湾に樹齢二千年の檜があるということで、法隆寺ができた千年前にその檜は法隆寺に使われた檜と同じ千年檜だったことになります。恵まれた環境の中ですくすくと育ったのかと思いきや、粘板岩のむき出しになった乾燥した荒れ地に二千年を生きた檜は生息していて、粘板岩の細かい層の間を根が偲び込むように入り込んでそこから栄養分を吸いとって二千年を生き延びたそうです。甘やかしてはいけないのだ、と強調していました。

 

友人の粘板岩の間を延びて行く葡萄の根っこと、二千年を生きた粘板岩の荒れ地に育つ檜。

生物学的に見れば共通するものはわずかしかないのですが、イメージの中で二つが引きあいます。

葡萄はせいぜい百年の寿命ですが、寿命のある間せっせと根を張っている姿を想像するのは、しかも15メートルもの深いところでせっせと根張りをしているのを想像するのは、元気がもらえるイメージです。それが二千年となると気が遠くなりそうなくらい元気になります。

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