オルゴールの話

2025年9月2日

オルゴールはいま日本が世界市場の80パーセント以上占めていますから、日本のお家芸かと思いきや、わたしたちが今日オルコールと呼ぶ形のものはスイスのジュネーブの時計職人、アントワーヌ・ファーブルさんによって1796年に作られたものなのです。円形の筒状をしたものに針を立てて、その針がピアノのように調律された金属の板に触れそれを弾くことで音が鳴る仕組みのものですが、これが今でも一番馴染みのあるオルゴールの形です。オルゴールは時計職人によって編み出されたものだったのです。さらにこのオルゴールの誕生にはゼンマイの発明が欠かせなかったのです。今日でもオルゴールは基本的にはネジを回してゼンマイを巻き上げる方式が引き継がれてします。

オルゴール誕生からほぼ百年の時間が流れ1886年になるとドイツで全く仕掛けの異なるデスクオルゴールなるものが発明されます。円盤状のディスクに針に代わるものを付けることで金属の板を弾いて音を出します。筒型のオルゴールは演奏できる曲の数が限られているのですがディスク型はデスクを変えれば今まで以上に様々な音楽が楽しめるというメリットがあり、オルゴールの世界に新しい時代が始まります。これは画期的な発明で瞬く間に世界中に広がりました。一つのオルゴールから何十曲、何百曲もの音楽が聴けるようになったのです。

ところがその十年後にエジソンが1877年に蓄音機を発明します。蓄音機とオルゴールは一見全く別のものなのですが、蓄音機の発明はオルゴールを押しやることになるのです。あれほど栄えたオルゴールは1920年頃には影を潜め、オルゴールそのもののも作られなくなってしまうのです。蓄音機の発想は音の波形を刻みそれを針で再生させるわけです。音源の豊富さはオルゴールとは比較にならないのです。録音技術が発達するとオーケストラの音まで録音して再生できるようになるます。オルゴールの調律された金属の板からの限られた音とは比較にならなかったのです。

デスクオルゴールは薄命な運命をたどりましたが、円筒形のオルゴールはその後も造られ続けて今日に至っています。ただ昔はオルゴール職人が腕を競ったため、驚くほど繊細な音質の高級なオルゴールが作られたのですが、それは流石に今日では極めてマイナーなものになってしまい、子ども向けのものや、宝石箱の箱を開けると回れ出すもの、人形のメリーゴーランドが周りながらオルゴールも同時に鳴るような大衆向けのオルゴールが主流になっています。もちろんその中でも優れたものからほとんどおもちゃと言っていいようなものまで相当の幅があり、音質的にも相当の幅があるようてす。

私の手元には縁があって、当時のスイスで作られた円筒形のとディスクオルゴールの二つがあり、オルゴールが全盛期にあった当時を偲ぶことが出派ます。どちらからも澄んだ張り詰めた音が楽しめます。広島の紙屋町にあった星ビルの五階にはゆったりとした喫茶室があり、そこにはアンチークの高級オルゴールがたくさん置かれていました。そこでお茶をしながら素晴らしいオルゴールの音を何度も堪能させていただきました。そこの専門の方がオルゴールの音の違いについて話してくださったことがありました。そのお話を私はワクワクして伺いました。その時のお話の内容は私のライアー演奏にも大きな影響があったのです。オルゴールというのは円筒形にしろデイスク状のものにしろ、基本的には針が調律された金属の板に触れ弾くという作業には変わりがないのです。ではその単純な作業からどのようにして音質のちがいが生まれるのかを話してくださったのです。その針と調律された金属の板が出会う瞬間が命だということでした。簡単にいうとその瞬間が短ければ短いほど音は緊迫感を持ち豊かになるということです。そして繊細な瞬間を作るためには針は固くなければならないわです。そして弾かれる金属の板は硬さとしなやかさを有していなければならないのだそうです。まるで日本刀の鋼の質に相当するような話です。

先ほどの瞬間が短ければ短いほどオルゴールからはフワッとした広がりのある音が生まれるのだそうです。ここが私のライアー演奏に影響したのです。それまでにも指から弦を話す瞬間を色々と空していました。しかしそれが本当にいい音作りにつながるのかは、主観的な観点からは納得していても、それは自分の好みに過ぎないと思うところもあって、確信できていなかったのです。ところがオルゴーからどのように良質の音を作るのかの説明を聞いたときに、ハッとしたので。探していた回答がそこにあったからです。それ以来弦を離す瞬間を短くするための努力がさらに磨かれていったのです。

ライアーを弾かれる方は、弦を引っ掻くのではなく、円形の筒の上の針が金属の板を弾くところをイメージされなが練習されてはいかがでしょうか。

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