わがライアーの音 流れる力

2012年3月19日

四番目はヘンデルのアレマンデを聞いていただけます。

この曲が作り出す流れに注目してください。

特に流れの中の歌を聞いてください。

ヘンデルの器楽曲は歌います。

これがヘンデルの音楽の特徴です。

いや、ヘンデルの魔法です。

 

かつては音楽といえば歌という時代がありました。

その時は歌の伴奏だった器楽曲です。

歌は言葉から生まれたものです。

言葉には必ずメロディーがあります。

ヘブライ語は文字が同時に楽譜でした。

言葉があれば、同時にそこには歌があったのです。

それが長い歴史の中でメロディーは独立します。

メロディーは言葉から解放されます。

ヘンデルはきっとその大成者です。

彼の音楽は至る所で歌が聞こえます。

器楽曲が歌えるようになったのです。

メロディーに革命が起きたのです。

 

ヘンデルのメロディーは韻文的です。

くどくどと何かを説明するためのものではありません。

メロディーそのものがすでに意味を持っています。

シェークスピアのセリフと同じです。

ヘンデルを弾いている時によくシェークスピアのことを思いました。

短いセリフの中に劇の全体が凝縮されています。

ハムレットの「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」

これだけですでに劇の様なものです。

ヘンデルも短いメロディーに沢山のことが凝縮しています。

あまりに自然に凝縮しているので、うっかりしていると見過ごしてしまいます。

説明するという知的な遊戯とは無縁です。

 

この曲を弾く時に注意したのは、メロディーの移行でした。

メロディーの機転をつかむまで悩みました。

一つのメロディーから次のメロディーに移る時が絶妙です。

気が付いたらもう次の世界にいるのです。

自転車でいつも曲線のカーブを走っている様な感じてす。

まっすぐ道を走っているのとは違い気が抜けないのです。

しかもそれを歌いながらしなければなりませんでした。

 

ヘンデルの音楽は温かい母の様なぬくもりを持っています。

そこを西洋的な透明感が貫いています。

温かさと冷たさとが同居します。

よく似た印象をシューベルトの音楽に持ちます。

シューベルトの方は母的ではありません。

そしてヘンデルよりも東洋的感性を多く持っています。

 

ヘンデルの音楽をライアーで弾くことで温かいメロディーを学びました。

温かさの中の厳粛さもヘンデルならではのものです。

大きな世界観的な背景を感じます。

どんなメロディーも世界観の裏付けがないと人の心を打つことはないこともヘンデルに教わりました。

そうしたことをヘンデルはさり気なく伝えてくれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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