音楽は身近なもの

2018年9月3日

18世紀に作られた楽器を使った音楽会に行って来ました。ヴァイオリン属の楽器だけでなく、トランペット、ホルン、フルートの管楽器も当時のものでした。

古い楽器で演奏する人たちの音楽会には幾度も足を運んだものです。その時の印象は、古い楽器であることや当時の音楽スタイルに神経を使いすぎて、音楽の楽しみよりも学問的なものが先行していて、楽しい思い出がなかったのですが、今回の演奏会は、のびのびとしていて、バッハのロ短調のミサでしたが、聴き終わった後、バッハには距離を置いている私でも「よかった、音楽会以上のものだった」と充実した気分でした。演奏していたのはアムステルダム・バロックオーケストラと言う団体で、指揮者はトン・コープマン。奇遇なことにわたしが聞いた次の日に日本に演奏旅行に出かけたと後日の新聞の批評で読みました。

 

ヴァイオリン属の楽器は基本的なものは18世紀には完成していましたから現代のヴァイオリンとほとんど変わらないのですが、弦がスチールではなく牛の腸で作られたガット弦ですから、きらびやかな音と言うよりも、いささかハスキーなしっとりした渋みのある音を出します。それだけでもほんのりとした気分に包まれます。弓の違いも大きいのですが、それ以上に弓の握り方が指先だけでなく腕からの流れを反映していると言うことで、ヴァイオリンを体全体で弾いているように見えました。

金管楽器はヴァイオリン属の楽器と比べると大きく違います。トランペットにはピストンが無いだけでなく穴もなく、簡単に言えばマウスピースが付いているだけの金属製の管(くだ)と言う体裁のものです。ということは音程を取る頼みの綱はマウスピースに当たる唇の微妙な動きと呼吸の調節のみですから、気の遠くなるような話です。ホルンも同様でピストン、音程を取る穴がないのです。今のホルンも渦を巻いていますが、昔のホルンは六回ほど渦を巻いていて、大きさも今のコンパクトなホルンに比べると二倍あるいは三倍くらいある堂々としたものでした。そもそもホルンは演奏の難しい楽器と言われていますが、マウスピースと管だけのホルンの演奏は想像を絶するほど難しいらしく、そのためにとくべな養成期間があり、吹ける人の数も少ないと言うことです。

ということは今の管楽器というのは、穴が開けられたり、そこにピストンが付けられたりと改良されたものなのです。それを進歩というのかどうかわかりません。ただ言えるのは演奏を容易にするためだったということです。どこか便利さを追求する精神に通じるものを感じます。

フルートは穴は開いていましたが今のように穴の上にキーが乗って機械的に穴を塞ぐのではなく、篠笛と同じに指の感覚で塞ぎます。そのため同じ人が同じ音程を演奏しても毎回微妙な違いが生まれるのです。トラベルソと呼ばれているこのフルートの音はロウソクの炎が揺らぐような震えのある音でした。それに比べると今のフルートは羽ばたくようなきらびやかな音でしかもピタッと音が決まり音程も正確に吹けます。また早い演奏速度をこなせるように改良され、といいとこだらけですが、トラベルソの不便さから生まれる音に、トランペット、ホルンも同じですが、肌に馴染む暖かな感触があり懐かしさすら感じるのです。

というわけで、音楽を聴きながら、音楽を作り出すために肉体が不器用な楽器と向かい合い繊細な仕事している現場に立ち会っていたのです。音楽をこんなに生々しく聞いたのは久しぶりのことでした。

音楽は身近なものなんだと改めて感じた次第です。

 

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