I love you

2023年8月10日

この言葉はアメリカ人が一番使う言葉と言ってもいい、有名すぎるものです、英語を代表する言葉です。

教科書通りに訳せば「私はあなたを愛します」となります。しかしこれは日本語の体裁は整えていますが日本語ではありません。なぜそういうかと言うと、日本人でこんなふうに恋人に気持ちを伝えた人がいないからです。もちろん統計としての価値があるほど調査したわけではありませんが、私の周りにこのようなことを言った人は一人もいませんでした。200人ぐらいには聞きました。

「私はあなたを愛します」で間違いではないと思いますが、状況次第ではそれ以外の訳語が当てられないと文脈的にギクシャクしてしまいます。

夏目漱石は恋人同士の会話の中で使われた「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳しているのですが、おそらくこれが意訳の頂点ではないかと思います。

その日本語を読んで英語に訳す人が「月が綺麗ですね」を「I love you」と訳すという保証はありません。おそらく100%起こり得ないことだと思います。

余談ですが、セレナーデにも面白い訳語が当てられたことがあります。今日では一般に「小夜曲」といふうに訳すのですが、正直何を言っているのかわかりません。小さい夜が何を言っているのかがわからないからです。知り合いに小夜子という人がいますが、本人も小さい夜の意味を知りませんでした。私の推測ですが、「夕焼け小焼で日が暮れて」と歌います。この時の小焼は太陽が地平線から沈んだ後に空に広がる夕焼けのことです。ということは「小夜」は深まった夜、つまり真夜中のことかもしれません。

セレナーデの一番的確な訳は私の知る限り「情婦窓下の曲」です。惚れた女が住んでいる窓の下で男が夜が深まった真夜中に、切ない恋歌を歌って気持ちを伝えるのですから、小夜曲(真夜中の曲)よりはずっと理にかなっています。初めて見た時はエロチシズムが漂いすぎている様に感じましたが、今は逆に名訳と称賛しています。

このような翻訳の楽しみはコンピュータの翻訳からは生まれない世界です。今や翻訳は人間以上に正確なものがコンピュータから生まれているとも言われています。ヨーロッパの言葉内ならきっとそうなのだろうと想像がつくのですが、そこに日本語が入ってくると、コンピューターも穏やかではいられないと思います。

日本語の特徴に、訓読みがありますが、これは好きなだけ作っていいよなものですから、コンピュータ的な感性では理解できないものです。日本語を学んでいる外国の人たちが頭を抱えてしまうのがこの訓読みです。

私は今シュタイナーの一般人間学の翻訳をしていますから、翻訳のことについて色々と考えます。私は「行間から読む」と言葉を添えました。言葉を移すだけだと、先ほどの「I love you」を「私があなたを愛します」的な誰も日本語だと思っていない言葉に翻訳されてしまいます。これは頭が訳したもので、知的に優れた人間にはなんとか通用するのかもしれませんが、一般人は拒否します。

「月が綺麗ですね」までは勇気がなくいけませんが、読んで勢いがある文体は、翻訳調を離れないとできないことがようやっとわかりました。

今第三講義まで出来上がっています。読み返して感じるのは、わかるってことでした。

911時、ビルの中にいて異変に気づいた人が家族に、恋人に、友人に最後に電話した時に言った言葉は「I love you」だったそうです。日本語なら「さようなら」ですかね。

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